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黒い膜・遮光膜を作るめっきとは
はじめに
製品や金属部品に黒い膜を付けたいと考えたとき、「黒くできれば何でも同じ」と思いがちですが、実際には手法によって仕上がりも性能も異なります。外観だけ整えたいのか、反射を抑えたいのか、あるいは耐食性や耐久性まで確保したいのかなど、求める機能によって選ぶべき処理は変わります。
当記事では、黒い膜・遮光膜を作る「黒染め処理」と「黒色めっき処理」について、それぞれの特徴・工程・違い・主な種類を解説します。自社の用途に照らしてどちらを選ぶべきか判断の軸が得られれば、最適な加工方法が分かるでしょう。
1.黒い膜・遮光膜を作る方法
黒い膜・遮光膜は、部品や製品の表面に黒色の層を形成し、反射を抑えたり外観を整えたりするために用いられます。 代表的な形成方法は「黒染め処理」と「黒色めっき処理」に大別され、いずれも金属表面に薄い黒い膜を付与する技術です。
光学分野では金属薄膜と誘電体薄膜を組み合わせた高性能な遮光膜も用いられ、カメラレンズ内部の迷光対策や電子機器・ディスプレイ部材などで広く活用されています。黒染め処理と黒色めっき処理のどちらの方式を選ぶかは、用途・基材・必要な機能によって異なります。
2.黒い膜を作る黒染め処理とは?
黒染め処理は、 「四三酸化鉄皮膜処理」または「フェルマイト処理」とも呼ばれる化成処理の一種で、鉄鋼材料の表面を化学反応によって黒色酸化皮膜に転化させる方法です。文字通り「染める」のではなく、強アルカリ性の処理液に浸漬し、表面に黒色酸化皮膜を生成させることで耐食性や親和性などを付与できます。ここからは、黒染め処理にどのような特徴やメリットがあるのか、またどのような工程で進められるのかを順を追って解説します。
2-1.黒染め処理の特徴
黒染め処理は、防錆・摺動性・潤滑性などの機能を付与する処理方法です。めっきのように別素材を付け足すのではなく、 化学反応で「表面そのものを黒い膜に変える」ため密着性が高く、寸法変化も極めて小さい点が特徴です。また、工程数が少なく処理液も安価であることから、量産品にも適した低コストな黒化手法として広く採用されています。黒染め処理のメリットは、下記の通りです。
・防錆性を付与できる
生成した黒錆皮膜が赤錆の進行を抑制します。防錆油を含浸させれば、防錆性・摺動性もさらに向上します。
・剝がれにくく長持ちする
化学反応で母材表面を酸化転化させるため、塗装やめっきと異なり、層が剝離しにくく耐久性に優れます。
・寸法精度を損なわない
被膜厚は1~2μm程度と極薄かつ低温処理のため、熱変形や寸法補正の後工程が不要です。
・外観品質が向上する
光沢の有無に応じて漆黒~マット黒の均一な外観が得られ、工業用途のみならず意匠用途にも使われます。
・低コストで導入しやすい
使用薬品や治具が安価で工程も少ないことから、めっきと比べて処理単価を抑えやすく、混在部品の同時処理にも向きます。
2-2.黒染め処理の基本工程
黒染め処理は、染料を塗るのではなく、アルカリ溶液による化成反応で表面に黒錆皮膜を生成させます。 工程は基本的に「洗浄→化成反応→保護」の3段構造で進みます。
①脱脂/酸洗い(前処理)
油分・スケール・赤錆などが残ると皮膜が均一に成長せず色ムラの要因になるため、脱脂・酸洗いで金属素地を清浄します。
②黒染め(化成反応)
約140℃の強アルカリ性黒染液で煮沸し、表面を四三酸化鉄(Fe₃O₄)に転化させます。この反応により、均一で密着性の高い黒色皮膜が生成されます。
③すすぎ(冷却と洗浄)
表面の水分が蒸発して酸素に触れると黒錆が赤錆へ変質するため、沸騰浴からすばやく移して冷却します。再汚染防止を目的に、仕上げすすぎは清浄水で行います。
④防錆処理(後処理)
多孔質皮膜に水置換性防錆剤を浸透させます。必要に応じて防錆油で仕上げることで、耐食・摺動性を高めます。
3.黒い膜を作る黒色めっき処理とは?
黒色めっき処理とは、 金属表面に黒色のめっき皮膜を形成し、外観性と機能性を同時に高める表面処理です。黒色は意匠としての重厚感・モダンな印象だけでなく、低反射・乱反射防止・耐食性・耐摩耗性などの実用性能を狙って採用されることも多くあります。同じ黒でも低温黒色クロム、黒クロム、黒ニッケル、黒色無電解ニッケルなどの複数方式が存在し、要求性能によって選定が変わります。ここからは、黒色めっき処理の特徴、黒染めとの違い、代表的な種類について順に解説します。
3-1.黒色めっき処理の特徴
黒色めっき処理は、意匠性と実用機能を両立できる表面処理です。特に、 艶消し(マット)系の黒化皮膜は光を吸収して反射を抑える特性があり、カメラ・センサなどの光学部品や、航空宇宙・軍用機器などの精密な光制御が求められる領域で広く採用されています。めっき皮膜は硬度・密着性・化学的安定性に優れるため、腐食・摩耗・熱環境に対しても信頼性を発揮します。黒化処理の代表的なメリットは、下記の通りです。
・低反射性
黒色めっきは光を吸収して乱反射を抑えるため、カメラ・センサ・プロジェクタなどの光学系装置に適しています。外光を避ける必要がある軍事・宇宙分野でも採用されています。
・耐久性/耐摩耗性
硬質で密着性の高い皮膜が衝撃や摩耗を抑えるため、可動部や産業機械・車載部品など、長期にわたり信頼性が求められる用途に向きます。
・防錆・防食性
黒色めっきは湿潤・屋外環境でも腐食進行を抑制し、防錆効果が期待できます。特に、黒色クロム皮膜は電位差腐食の要因となる電位を持たず、異種金属接触による腐食リスク低減にも有効です。
3-2.黒染め処理との違い
黒染め処理と黒色めっき処理は、いずれも黒い膜を形成する点では同じですが、原理・性能・適用範囲が異なります。黒染めは鉄系素材の表面をアルカリ溶液で化学反応させ、母材そのものを黒錆皮膜に転化させる化成処理です。黒染めによる酸化皮膜は極薄で寸法影響が小さくコストも低い一方、防錆・耐摩耗の性能は限定的で、傷が入ると赤錆が進みやすいという側面があります。
これに対し、 黒色めっきは外部から金属皮膜を被せる処理であり、厚みと材質を制御することで、耐久性・防錆性・光学特性を高いレベルで確保できます。そのため、長期の信頼性が求められる部品や光学・精密用途では黒色めっきが採用されるケースがほとんどです。
3-3.黒色めっき処理の種類
黒色めっきには複数の方式があり、求める外観・耐久・防錆・光学特性・コストによって選択が変わります。ここでは、黒色めっき皮膜の代表的な4種を紹介します。
・黒クロムめっき
クロムを主成分とする黒色皮膜で、反射防止・耐食・耐熱に優れます。航空宇宙・車載・光学部品などの高機能用途で広く採用されています。ただし、皮膜はポーラスであるため、単層では酸化抑止力が不足する場合があり、用途に応じた後処理が必要です。
・黒ニッケルめっき
深みのある黒~濃グレーの装飾性に優れ、眼鏡・時計・アクセサリーなどの意匠用途に多用されます。耐久・耐食は他方式に比べて劣るため、必要に応じて保護膜と組み合わせて用います。
・黒色無電解ニッケルめっき
電気を用いず化学反応で形成するため、複雑形状でも均一膜が得られ、精密部品に適します。防食性と導電性を両立し、電子部品・精密機械部品で採用されています。
・亜鉛めっき+黒色クロメート
コストと防錆性のバランスに優れ、建築金物・家電で多用されます。ただし、六価クロムを用いる場合は環境規制の考慮が必要で、色調も均一になりにくい場合があります。
まとめ
黒い膜を形成する方法は黒染め処理と黒色めっき処理に分かれ、それぞれで得られる性能やコストは異なります。黒染めは寸法影響がほぼなく安価で扱いやすい一方、防錆・耐摩耗性は限定的です。反対に、黒色めっきは外観性とともに反射抑制・耐久・防錆などの機能を高いレベルで付与でき、光学・精密・長期使用部品に適します。
黒い膜・遮光膜を作るにあたっては、「外観だけか」「機能まで必要か」「コスト制約はあるか」を軸に方式を選ぶことが、失敗を避ける最善策と言えます。用途に対してどちらが適切か判断に迷う場合は、自社で結論を先送りにせず、用途・要求寿命・環境・外観要求・許容コストなどの前提条件を整理した上で、加工業者へ相談するとよいでしょう。




