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半導体に使われるめっきとは?
はじめに
半導体はスマートフォンやパソコン、自動車など、現代社会を支える電子機器に必要な基盤技術です。その製造工程では、信号伝達を安定させ、接続不良や酸化・摩耗による劣化を防ぐために「めっき」が広く活用されています。金や銀、ニッケルといった金属を用いた表面処理は、電気特性を高めるだけでなく、耐久性や信頼性を確保する重要な役割を担っています。
当記事では、半導体にめっきが必要な理由、種類ごとの特徴、バンプ形成やワイヤボンディングなど具体的な工程におけるめっきの活用事例を解説します。
1.半導体にめっきが必要な理由
半導体の電極や接点部分には、信号伝達や接続の安定性を確保するためにめっき処理が行われます。導電性を高め、酸化や摩耗による劣化を防ぐことで、製品の信頼性や長期使用に耐えられる性能を実現する役割を担っています。ここでは、その理由を3つに分けて解説します。
半導体産業のめっき(メッキ)・表面処理|㈱三ツ矢
1-1.電気伝導性の向上
半導体デバイスは、内部で微細な回路が膨大な量の信号を高速でやり取りしています。その際、電極や端子部分の抵抗値が高いと信号が正しく伝わらず、性能低下や誤作動の原因となります。そこでめっき処理を施すことで、 表面の導電性が飛躍的に高まり、電気信号を安定的に伝達できる環境が整います。
特に金や銀などの高伝導率金属を用いためっきは、抵抗の低減だけでなく、温度変化や使用環境による性能のばらつきを抑える効果もあります。高伝導率金属を用いためっきの効果により、高速で高精度なデータ処理を求められる半導体製品において、確かな信頼性を確保することが可能となります。
1-2.接続性の向上
半導体デバイスはパッケージングや基板実装の段階で、はんだやリードフレームと確実につながることが必要です。しかし、銅やシリコンなどの素材はそのままでは表面が酸化しやすく、また凹凸があるため接触抵抗が高くなりがちです。
そこで金やニッケルなどのめっきを施すことで 表面が平滑化され、電極と他部品との密着性が向上します。密着性が向上することにより、はんだ付け時の濡れ性が改善され、接続不良や初期不具合のリスクが大幅に低減されます。安定した信号伝達が可能となり、製品の歩留まりや接続信頼性を高める効果が得られます。
1-3.耐久性の向上
半導体は長期間安定して動作することが求められますが、金属端子は使用環境によって摩耗や経年劣化を受けやすいという課題があります。めっきを施すことで、 摩擦や繰り返しの通電による損傷を軽減でき、耐久性が飛躍的に高まります。
特に摩耗に強い金めっきは、 繰り返しの接続試験や長期使用において安定した導通を維持する上で有効です。腐食や変色を抑える効果もあるため、長期間使用しても接触抵抗が増加しにくくなります。こうした耐久性の確保は、半導体製品の寿命延長と信頼性の維持に直結する重要な要素です。
2. そもそも半導体とは
半導体とは、 電気をよく通す「導体」と、ほとんど通さない「絶縁体」の中間の性質を持つ物質のことです。代表的な材料はシリコンで、温度や光の影響を受けて電気を通しやすくなったり通しにくくなったりする特徴があります。この性質は「バンドギャップ」と呼ばれるエネルギー構造によって生じ、制御することでトランジスタやダイオードといった素子を動作させることが可能です。
こうした素子を多数組み込んで作られる集積回路(IC)は、情報の記憶、数値計算や論理演算などを担い、電子機器の頭脳として機能します。半導体はスマートフォンやパソコン、自動車、家電など幅広い製品に用いられており、現代社会を支える基盤技術と言えるでしょう。
2-1.半導体の製造方法
半導体の製造は、大きく「設計」「ウェーハ製造」「前工程」「後工程」の4つのステップに分かれます。各段階の要点は次の通りです。
①設計・マスク作成
コンピュータで回路設計・シミュレーションを行い、効率的なレイアウトを決定します。その後、設計したパターンを透明ガラス板に描き、ウェーハに転写するためのフォトマスクを作成します。
②ウェーハ製造
高純度シリコンの単結晶インゴットを生成し、ワイヤーソーで薄くスライスしてウェーハを作ります。表面を研磨して鏡のように平滑化し、回路形成の土台を整えます。
③前工程(ウェーハ処理)
酸化や薄膜形成で絶縁層や配線層を作り、フォトレジストを塗布して光でパターンを焼き付けます。エッチングで不要部分を除去し、イオン注入で特性を変化させます。平坦化(CMP)を繰り返しながら多層回路を積み重ね、最後に金属配線や電極を形成します。プローブカードを用いたウェーハ検査もここで行われます。
④後工程(組立・検査)
ウェーハを切断してチップを分離(ダイシング)し、リードフレームに固定して金線などで接続(ワイヤボンディング)します。さらに樹脂やセラミックでパッケージングし、温度試験や外観検査などの最終検査を行います。合格品のみが完成品として出荷され、スマートフォンや自動車などに組み込まれます。
3.半導体の製造で使われるめっきの種類
半導体の製造工程では、電極形成や配線の保護のためにさまざまなめっき技術が用いられます。代表的なものとして電解めっきや無電解めっきに加え、真空蒸着、スパッタリング、CVDといった薄膜形成技術も活用されます。ここではそれぞれの特徴を解説します。
3-1.電解めっき
電解めっきは、 外部電源を利用して金属イオンを還元し、基材表面に金属を析出させる方法です。めっき槽に基材を陰極として配置し、金属イオンを含む溶液に電流を流すことで、層の厚さを数μmから数十μm以上まで正確に制御できます。厚膜形成が可能なため、半導体のバンプやピラー形成、SnAgなどの合金めっきに広く用いられます。
メリットとして、微細電極への対応や膜厚管理の容易さ、長期的なコスト効率が挙げられます。一方で、専用治具による外部電源接続が必要で、処理は基本的に枚葉式となり、膜厚の均一性や前処理工程の追加などが課題となります。このため、大量生産や短納期対応には不向きな側面もあります。
3-2.無電解めっき
無電解めっきは、 外部電源を使わず化学反応によって金属を析出させる方法です。電解めっきと異なり、下地金属層やレジストパターンが不要で、電極部分にのみ選択的に層を形成できるため、工程を簡略化できる点が大きな特徴です。また、一度に複数枚のウェーハを処理できるため、大量生産や短納期対応にも適しています。
均一な膜厚が得られやすく、複雑な形状の基材でも安定した層を形成できるのもメリットです。一方で、形成できる膜厚は数μm程度に限られ、厚膜形成は処理時間が長く非効率になります。析出可能な金属や合金の種類が限られるほか、めっき液の管理が難しいという課題もあります。無電解めっきは導電性を持たない樹脂やセラミックスなどにも適用されています。
3-3.真空蒸着
真空蒸着は、ドライめっきの一種で、 真空状態のチャンバー内で金属や化合物を加熱し、蒸発・昇華させた蒸気を基材表面に堆積させる方法です。ウェット方式と異なりめっき液を使わず、nm単位の極めて薄い膜を均一に形成できる点が特徴で、ICのUBM層や光学部品の反射膜形成に多用されています。抵抗値を抑えた導電膜を作れるため、高性能半導体や電子部品に適しています。
ただし、蒸気は基材全面に付着するため、不要部分を覆う専用マスクが必要となります。形成できる膜厚は数nmから数μmと比較的薄いため、厚膜形成には不向きですが、微細加工や高精度を要する用途では有効な手法です。真空蒸着は半導体や光学デバイスにおいて欠かせない薄膜形成技術の1つです。
3-4.スパッタリング
スパッタリングは、 真空中に導入した不活性ガス(主にアルゴン)をプラズマ化し、加速したイオンをターゲット材料に衝突させることで、原子や分子を弾き出し、基板表面に薄膜として堆積させる方法です。砂に石をぶつけて砂粒が飛び散るイメージに例えられるように、物理的な衝突エネルギーで材料を飛ばして成膜します。
真空蒸着では困難な高融点金属や合金、化合物でも成膜が可能で、広範囲な材料に対応できる点が特徴です。酸素や窒素などの反応性ガスを導入すれば、酸化物や窒化物の成膜も可能です。得られる膜は密着力と緻密性が高く、膜厚や膜質を安定的に制御できるため、半導体や電子部品の高性能化に必要な技術です。
3-5.化学蒸着(CVD)
CVD(Chemical Vapor Deposition)は、 原料ガスを装置内に導入し、熱やプラズマ、光など外部からエネルギーを与えて化学反応を起こし、基材表面に薄膜を形成する乾式めっき技術です。複雑な形状にも均一に膜を付けられ、真空度が比較的低くても成膜できるため、大規模装置を必要としない点が特徴です。代表的な方式には、数百~数千℃の高温で処理する「熱CVD」、低温で高品質な膜を形成できる「プラズマCVD」、光照射によりガスを分解して成膜する「光CVD」があります。
CVDは成膜速度が速く、均一で緻密な膜を作れる一方、処理条件によっては基材にダメージを与えたり、応力による膜の剥離が生じたりすることもあります。それでも、半導体や電子部品、太陽電池など幅広い分野で活用される重要な薄膜形成技術です。
4.めっきが使われる半導体製造のプロセス
半導体製造では、電極や配線の形成から接続方法、部品表面の保護まで、さまざまな工程でめっき技術が活用されます。ここでは代表的なプロセスを紹介します。
4-1.バンプ・配線形成
半導体製造で使われる代表的なめっき工程の1つが「バンプ形成」と「配線形成」です。バンプとは、 チップの電極部分に作られる小さな突起電極で、パッケージ基板とチップを接続するために必要です。工程としては、ウェーハ上にシード層とフォトレジストを成膜した後、電解めっきで金属を積み上げ、レジスト剥離・シード層エッチングを経て、最後にリフロー処理でバンプ形状を整えます。近年はバンプピッチの微細化が進んでおり、その形成精度は先端半導体の性能を左右する重要な要素となっています。
また、チップ実装にはワイヤボンディングやフリップチップ法などさまざまな手法があり、いずれも接合部の表面処理にニッケルや金めっきが利用されます。これにより接合信頼性や導電性が高まり、長期にわたり安定した性能を発揮できるのです。
4-2.ワイヤボンディング
ワイヤボンディングは、 半導体チップの電極と基板上の回路パターンを細い金属ワイヤーでつなぐ工法です。アルミ電極や金端子に対し、金ワイヤーを熱・荷重・超音波で接合し、IC内部と外部を電気的に導通させます。基板の小型化に有利で、現在も広く採用されています。
方式には、ワイヤー先端にボールを形成して接合する「ボールボンディング」と、スパークを使わず圧着する「ウェッジボンディング」があります。前者は金ワイヤーに適し量産向け、後者はアルミ線や太線も利用できるのが特徴です。
この接合を支えるのがUBM(Under Bump Metal)と呼ばれるめっき層です。電極表面に形成される下地金属で、ニッケルや銅、金のめっきが用いられ、ワイヤーやはんだボールとの接合性を強化し信頼性を高めます。
4-3.TAB
テープオートメーテッドボンディング(TAB)は、 フレキシブルな絶縁基材に銅箔で配線を施した「TABテープ」を用い、ICチップを直接接続する工法です。TABテープには2層と3層の種類があり、日本ではポリイミド基材に銅箔を貼り付ける3層テープが多く使われます。製造工程では、ポリイミドに孔開け加工を行い銅箔を熱圧着し、回路パターン形成やエッチング、ソルダレジスト塗布の後に必要なめっきを施して仕上げます。
接続方法としては、IC上の金バンプとTABテープのフィンガリードに施されたスズめっきを一括で接合するのが一般的です。このスズめっきは電気的な導通と接合の強度を高めるために欠かせません。TABは細かい配線ピッチへの対応が可能で、自動化された高速装置により大量生産に適している点も特徴です。現在ではLCDドライバICやスマートデバイスなど幅広い分野で利用されており、ワイヤボンディングを補完する技術としても重宝されています。
4-4.フリップチップボンディング
フリップチップボンディング(FCB)は、 半導体チップを裏返して基板に直接接続する工法です。チップ表面の電極バンプと基板パッドを突き合わせることでワイヤーを不要とし、接続距離を大幅に短縮。信号遅延やノイズが抑えられ、高速通信や高周波特性に優れます。
バンプにははんだや銅が使われ、表面にはニッケルや金のめっきが施され導電性と耐久性を強化します。接合方式にはリフローによるC4接合、金バンプ圧着、ACF接合、銅ピラー接合などがあり、用途に応じて選ばれます。
この技術はスマートフォンやプロセッサ、AIチップなど小型・高性能機器で広く利用されており、高密度実装と優れた電気特性を実現する現代の半導体製造の要です。
4-5.レーザー穴(LVH)の導通
ビルドアップ基板の製造において、層と層をつなぐために使われるのがレーザー穴(LVH:Laser Via Hole)です。レーザーで開けた微細な穴は、内部に樹脂が残るためまずデスミア処理で除去し、その後に銅めっきを施して導通させます。この銅めっきによって電気が流れる通路が形成され、多層基板の信号伝達が可能になります。
LVHのめっきには主に「ディンプルめっき」と「フィルドめっき」の2種類があります。ディンプルめっきは穴の壁面に沿って銅を形成する方法で、比較的シンプルな構造に適しています。一方、フィルドめっきは穴の凹み全体を銅で埋めて平坦化する方法で、これにより複数のLVHを積み重ねる「スタック構造」が可能になります。
スタック化によって配線の省スペース化や基板の小型化が実現し、スマートフォンや高性能機器など限られたスペースに多機能を収める用途で不可欠な技術です。LVH導通の銅めっきは、高密度実装を支える重要な工程と言えます。
4-6.ビアフィリング
ビアフィリングとは、 多層基板の層間をつなぐビアホール(導通穴)を銅めっきで埋め、平坦化する技術です。従来のスルーホールは壁面に銅を形成するため中空部分が残りましたが、ビアフィリングでは穴全体を銅で満たすため、電気伝導性と機械的強度が向上します。
特に高密度配線基板(HDI基板)で重要で、ビアを埋めることで上に回路や新しい層を形成でき、設計自由度が広がります。スタックビアやブラインドビア構造にも対応可能で、スマートフォンやサーバー用プロセッサなどの小型・高機能デバイスに必要です。
ビアフィリングには電解銅めっきが一般的で、均一に充填するため添加剤や電流制御技術が使われます。小型化と高性能化を支える基板加工の要であり、次世代半導体パッケージに重要なプロセスです。
4-7.リードフレーム表面処理
リードフレームは半導体チップを外部端子とつなぐ金属部材で、その性能向上のため表面にめっきが施されます。めっきは金属表面に薄膜を形成し、耐摩耗性や耐腐食性、導電性、外観を改善する効果があります。特にIC実装時のワイヤボンディング接合性を高める点で重要です。
方法には電解めっきと無電解めっきがあり、リードフレームでは電解めっきが主流です。銀(Ag)めっきが一般的で、仕上がりの光沢度も調整可能です。用途によってはニッケル(Ni)下地や金(Au)、パラジウム(Pd)との多層めっきも用いられます。
コスト削減や密着性向上のための部分めっきも活用されます。無電解めっきでは無電解ニッケルが使われ、曲げ加工後の部材など導通が難しい部分にも対応可能です。リードフレーム表面処理は半導体の信頼性を支える不可欠な工程です。
4-8.コネクタの端子表面処理
コネクタの端子には必ずめっきが施されます。理由は、 電気を安定して流す導電性を確保し、接続部の耐摩耗性や耐食性を高めるためです。素の金属のままでは酸化や摩耗で接触不良が起こりやすく、機器の信頼性を損なってしまうため、表面処理は大切です。
代表的なめっきには金(Au)、銀(Ag)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)などがあり、用途やコストに応じて使い分けられます。金は導電性と耐食性に優れ、高級コネクタに使用され、スズは安価で一般的な電子部品に広く利用されます。また、下地にニッケルを施すことで密着性や耐摩耗性を高める工夫もあります。
端子全体を覆う全面めっきだけでなく、必要な部分だけに施す部分めっきも活用されます。コネクタ端子の表面処理は電子機器の信頼性を左右する重要工程です。
まとめ
半導体製造におけるめっきは、導電性や接続性、耐久性を高めるために大切な工程です。電極や端子の表面に金・銀・ニッケルなどをコーティングすることで、信号伝達を安定させ、酸化や摩耗による劣化を防ぎます。
代表的な方法には電解めっきや無電解めっき、真空蒸着やスパッタリングなどの薄膜形成技術があります。プロセスとしてはバンプ形成やワイヤボンディング、TAB、フリップチップ実装、ビアフィリング、リードフレームやコネクタ端子の表面処理など幅広く活用されており、半導体の小型化・高性能化・信頼性向上を支える基盤技術となっています。




